筋膜の性質

筋膜を大きな意義でとらえた時、私達が関心を持っているのは、結合組織のネットワーク、コラーゲン性のネット、あるいは細胞外基質といえる。

これは、筋内膜の写真だが、身体の中の全てのコラーゲンは、1つのネットとして、お互いがリンクしあっている。

私達の身体は、約70兆個の細胞によって作られている。

それらの細胞は、神経細胞、筋肉細胞、上皮細胞そして結合組織細胞と、それぞれに専門化された役割を持つ。神経細胞は伝達を専門とし、筋肉細胞は収縮を、上皮細胞は分泌そして組織の裏ばりを、結合組織細胞は、筋膜の構成要素である細胞間物質を製作することにより、サポートすることを専門とする。

結合組織細胞は、赤血球細胞、何種かの白血球細胞、そして繊維細胞をはじめとして、骨芽細胞、軟骨細胞、マスト細胞を含む、基質を構成する細胞に分類される。

細胞外基質は、水分、そして、結合組織細胞によってつけ加えられた追加の要素:基質(糖蛋白あるいはグリコアミノグリカン)と繊維(コラーゲン、エラスチン、レチクリン)によって成り立っている。

これは、神経、毛細血管、コラーゲンによって満たされた、神経、血管、繊維のネットである組織の一部を表現したものである。ピンク色の背景色になっている部分が、水分に溶けている基質である。糖蛋白は、ゼリーのように、熱や動き、ゼリーのような状態から溶解した状態へ移行する際のエネルギー等によって、その状態を変化させることができる。微量の基質は大量の水分と結びつくことができる。

水分が少なく、よりゼリー状であれば、その基質は、より粘着性の高いものとなる。温度が高く水分が多ければ、その基質はより希薄な水のようなものとなり、この環境では、細胞は液体や栄養分を交換することが容易となる。

細胞間のスペースには、コラーゲン、エラスチン、レチクリンという三種類の繊維が存在する。コラーゲン繊維は、繊維芽細胞によって一筋のトロポコラーゲンとして、放出、作製される。(真ん中に見える紫色の繊維がトロポコラーゲンであり、小さい塊は繊維芽細胞)基質中で、トロポコラーゲンが撚り合わされ、三重螺旋のコラーゲン分子を構成する。(写真下部の黄色のロープ状のもの)コラーゲン繊維は12種類あるが、身体構造にとって最も一般的で、耐用性のあるのは、タイプ1コラーゲンである。

大変細いレチクリン繊維は、コラーゲン繊維の未熟な形状であり、胚子でよく見られるが成人ではあまり見られない。黄色/オレンジ色の繊維は、エラスチンであり、名前のとおり、ゴムバンドのような性質を持ち、弾性の靭帯や、耳、肺等の組織に多く存在する。

人間の身体は、組織中の水分、基質、繊維の種類等の割合を変化させることにより、様々な種類の構築建材を作製することができる。例えば、骨。骨は大変密度の高い、革のような性質の繊維をもち、水分は押し出され、基質がミネラル塩に置き換えられたものである。

軟骨も、骨に良く似た構成であるが、基質がコンドロイチンというジェル状のものに置き換えられている。

眼球のレンズ、足底腱膜、全ての靭帯、腱、歯の象牙質、脂肪、脳の白質、これらも全て結合組織という、使途の広い組織で作られている。

繊維、基質、水分そして細胞(ここでは何種かの脂肪細胞)が全て混合されて脂肪分の多い、粘性の、強い、伸長性のある伝達性媒体が侵入物に抵抗することで、ホメオスタシスを維持する働きをする。

”結合組織は身体部分をお互いに繋ぎ合わせるのみではなく、種々の医療系統を繋ぎ合わせているものでもある” by スナイダー

結合組織はどのようにコミュニケーションを取っているのか?

これは、未だ研究途上の分野ではあるが、現在三通りの方向性が示されている。

明確に、結合組織は布地としてコミュニケーションをとっている;布地の片方の端を引っ張ることにより、布地の反対端が引っ張られる。これはアナトミートレインズのストーリーでもあり、又アイダ・ロルフが唱えたことでもある。脚にある緊張;痙攣している筋肉、あるいは怪我による瘢痕組織が、結合組織の布地に沿って伝達され、首の緊張として現れる。またその逆もあり得るわけで、たとえば頸部のむち打ちが股関節に影響を与えることもある。

筋膜を介してのコミュニケーションの二番目の方法としては、このイラストでも示されているように、ピエゾ電流を介して行われるものである。筋膜の液体結晶を変形させることにより、イオンが分子に沿って移動し、それによって微弱な電流をおこす。細胞はこの電流の流れに反応し、例えば、左上の絵に示されているように、大腿骨のパターンが、その個人の使い方のパターンによって残されたピエゾ電流の流れに反応するように残るのである。

この伝達のスピードは、神経系が160mphであるのに対し、筋膜では720mphと、筋膜を介しての速度の方が速いが、このシステムを介して伝達することができる情報の種類は、張力と圧縮のみに限られる、つまり、メカニカルな情報に限られている。

大腿骨は動きのパターンのために、このシンプルなメカニズムを通して特別にデザインされた、最軽量で、最強の優れたデザインを持つものである。

それぞれに、ただ1つの使命を持った二種類の細胞があるとする。骨芽細胞は、骨の周囲を包むサランラップコーティングのような骨膜下のどこにでも骨を作る、ということをただ1つの使命として担い、これを実施する。

小さい骨のパックマンのような破骨細胞も、又1つの使命を背負って送り出される。ピエゾ電流を蓄電していない骨を食べて、ピエゾ電流を蓄電している骨を食べない、という使命を。これにより、骨は最も効率的な方法で、常に更新されるのである。

筋膜のコミュニケーションの三番目の方法は、神経系を介してのものである。

誰かの腕を、自分の肩の上に乗せて、その腕をプレスダウンしてもらう。腕を押している人の脇の下のエリアを感じてみると、広背筋と大胸筋が働いているのを感じるはずだ。これらがこの動きの主働筋となる。ここで、指先を相手のウエストのあたりに置いてみて、外側の腹筋群の動きを感じるようにする。ここで、もう一度肩を押してもらうようにする。これらの筋肉群が収縮するのを感じるだろうか?感じるとすればそれはなぜだろうか?今度は、相手が肩を押す時に、ベルトの下のラインのあたりで、股関節外転筋群を感じてみよう。これらの筋肉が硬くなって収縮するのを感じるだろうか?

身体は、肩からその次のレベルにある安定したもの、つまり床までの外側のラインの部位を全て使って安定を図っているのである。神経系の無意識レベルのパターンは、私達の身体が直立した状態でバランスがとれるように、身体の外側ラインに位置する筋筋膜を精確に調整するように働いているのである。

これは繊維芽細胞が、手当り次第に繊維を生産している様子。

これら全てをまとめると、筋膜のネットは皮膚から骨まで、頭のてっぺんから爪先まで、前から後ろへ、サイドからサイドへ、全てを1つのシステムとしてまとめている。

アナトミートレインズが地図として表現しようと試みているのは、このシステムの性質なのである。